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大阪高等裁判所 昭和38年(ナ)9号 判決 1964年4月30日

原告 佐藤正次 外一名

被告 京都府選挙管理委員会

主文

原告等の第一次及び第二次請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

第一、双方の申立

原告等は第一次的に「被告が昭和三八年九月二八日原告等の訴願についてなした裁決を取消す。昭和三八年四月三〇日施行された京都府加佐郡大江町の町長選挙を無効とする」旨、第二次的に「右裁決を取消す。右選挙における岡垣[イ原]一の当選を無効とする」旨および「訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

第二、原告等の主張

一、原告等は昭和三八年四月三〇日施行された京都府加佐郡大江町の町長選挙に際し有権者であり、原告佐藤正次は候補者であつた。右選挙の候補者は右原告の外岡垣[イ原]一の計二名であつて、選挙の結果その得票数は岡垣二、八八九票、原告佐藤二、八六六票無効一八五票として岡垣[イ原]一が当選者と決定、告示せられた。

然し右選挙はその管理執行及び投票の効力決定について後記のごとく違法な点が少くなかつたので原告等は同年五月一四日選挙及び当選の効力について大江町選挙管理委員会に異議の申立をしたが同年五月二一日棄却されたので同年六月七日被告委員会に対し訴願を提起したところ同年九月二八日これまた棄却され同年一〇月一日裁決書を受領したのであるが右裁決には不服があるので同月三〇日本訴申立に及んだ次第である。

二、本件選挙の管理執行には次のごとき無効原因があり本件選挙は無効である。

(1)  右選挙は昭和三八年四月二三日告示され、同月二六日が立候補届出期限となつていた。而して岡垣[イ原]一は告示と同時に立候補し原告佐藤は同月二五日立候補したので同日迄は岡垣[イ原]一の単独候補となつていたに拘らずその間すなわち同月二三日から二五日にかけての三日間不在者投票が行われたのである。およそ選挙の投票は対立候補があつて始めて意義のあることは単独候補の場合は無投票となることを見ても明らかである。故に右単独候補期間中の不在者投票一四票は有効投票に算入すべきでなく岡垣[イ原]一の得票から控除すべきであるに拘らずこれを同人への有効投票に算入したのは、又仮にその全部が岡垣への有効投票として算入せられた事実はないとしてもこれを一般投票に混合したのは、僅か一〇票前後の少差で当落のわかれた本件にあつてまことに重大な違法措置というべく本件選挙を無効とするものである。

(2)  更に本件選挙の開票管理及び投票の効力決定には次のごとき重大な瑕疵がある。

公職選挙法第六六条第二項には開票に際し立会人には全票を点検させ、また同第六七条には疑問票については立会人多数が有効と認めた投票に付てすらいやしくも無効の疑いがあるかぎりその都度全立会人の意見を聴くべき旨規定しておりまたこれが従来大江町選挙管理事務の慣例であつたのに拘らず、本件選挙においては、開票台で開披された総ての「有効票」は無効投票整理係及び立会人を経由することなく直ちに得票計算係に廻付せられたのであつて開票管理者兼選挙長田和密祐(同人は町選挙管理委員長をも兼ねていた)は「有効票」の全部について点検を行わず、また立会人に右点検を促す何らの発言またはその省略の諒解を求める如何なる措置をも講じなかつたのである。すなわち本件開票場の状況は開票台で多数の事務員がどんどん開票を進め「有効票」は選挙長、立会人を素通りしたまま直接投票計算係に送られ同係からその計算の結果が逐次発表せられており、一方選挙長、立会人は回送されてくる疑問票の点検に忙殺され、「有効票」の点検をしようにも時間的に到底なしえない状況であり、結局「有効票」は選挙長、立会人席へは一束、一枚も回付されず一方的にその投票効力が決定され発表されて了つたのである。而して疑問票についても立会人の許へ回付されはしたものの選挙長がその効力決定につき立会人の意見を聴くことを怠りその結果候補者選出の立会人二名迄が有効と認めたに拘らず一方的に無効と決定せられた票が多数あるのであつてこのことは如何に選挙長に決定権ありといえども職権乱用も甚だしきものというべきである。現に前記原告等の訴願による被告委員会の裁決においても(右裁決は結局において原告等の訴願を棄却したのであるが)、原告等の主張が一部容れられ投票の結果につき岡垣[イ原]一 二、八九一票、原告佐藤正次二、八七九票、無効投票一七二票と訂正されたほどであり、開票管理及び投票の効力決定に関する以上のごとき重大な瑕疵は本件選挙を無効とするものである。

(3)  なお本件選挙に関連し大江町選挙管理委員会及び被告委員会がなした措置には上記のほか法の明文及び趣旨に違反した事項が随所にあり全般的にいつて本件選挙の執行及びその後の手続は著しく公正を欠いだ粗雑極りないものである。例えば公職選挙法第六一条には開票管理者は選挙権を有する者の中から市町村選挙管理委員会の選任した者をあてることになつている、この規定は開票管理者は一般有権者から選んで事務を管理させ選挙管理委員会は大所高所の立場からこれを監督することを目的としたものであるところ、本件開票管理者は町選挙管理委員長田和密祐が兼ねていた違法があり且つ同人は原告等のなした前記異議の申立に対しては自らが裁かれる立場に置かれたのであるから地方自治法第一八九条第二項により右異議の審査に参与すべきでないに拘らず憶面もなく自ら会議を招集且つ主宰し自ら異議棄却の決定を下す(選挙管理委員長自らが開票管理者たるが故に同委員会は委員長に盲従せざるをえない実状となり公正な審査ができなかつたのは当然である)重大な違法を犯したものであり、被告府管理委員会また原告等が前記訴願の審査において原告等の立会いによる投票の再点検を申立てたところ、原告等には立会わせずかえつて被疑者の立場にある町選挙管理委員全部を立会わさせ而も選挙当時の係り課長、書記等を開披机より一、二米のところに同席させて投票の再点検をしたのである。開披室には右の者以外入室を許されなかつたので再点検過程において記載文字をいかようにも改ざんできる状況にあつたのであり町選挙管理委員会と被告府管理委員会との一連一体的な関係に徴し改ざんされた可能性は決して少くない。なお公職選挙法第七〇条第七一条及び規則により投票は投票管理者及び同立会人が封印して保管することとなつているが、封印保管は再開披にあたり内容の異状の有無を調認するためのものでこれら封印者の立会なくして開披したことは違法であり封印と立会者の価値を失わしめるものである。町選挙管理委員会と被告府管理委員会との緊密な関係を照らし合わせるとき保管票の一方的開披は開票当日そのままの異状なき投票たるかどうか到底その内容に信を措きがたきものがある。民主政治の根元は公明選挙にあり公職選挙法第二〇五条にいわゆる「選挙の規定に違反するとき」とは単に法令の明文に違反する場合のみの謂いではなく、公選の精神にかんがみ当該機関の職権乱用等により選挙の根幹たる自由と公正が阻害せられる場合をも指すのであつて上記のごとく選挙の執行及びその後の手続において随処に法令違背、職権乱用の廉があり大江町において現在、「曽てない不明朗選挙」とする世論の沸騰を来たしている本件選挙のごときが無効とせらるべきことは当然である。

三、仮に本件選挙が無効でないとしても岡垣[イ原]一の当選は無効である。被告京都府選挙管理委員会は前記のごとく原告等の訴願に対してその主張を一部容れることとはしたものの、結局において投票の結果につき岡垣[イ原]一 二、八九一票、原告佐藤正次二、八七九票、無効投票一七二票と判定して右訴願を棄却した。然し右裁決には以下述べるがごとき違法があり岡垣[イ原]一の当選は無効である。

(1)  右裁決及び本件訴訟における被告委員会の主張によれば無効投票一七二票中同時に執行された町会議員候補者の氏名を記載したと認められるもの六四票、その内原告佐藤正次に関係ありと認められるもの一八票となつているが、右一八票のうち「佐藤政美」「さうとまさみ」「佐藤まさみ」「佐とうまさみ」と記載せられた計一二票は原告佐藤正次への有効投票として算入すべきものである。

すなわち本件町長選挙と同時に行われた町会議員選挙の候補者中には佐藤正美なる者がいたが、この同時選挙において町選挙管理委員会は投票に際しこれによる混乱を生じないよう特別の考慮を払い町長及び町会議員の投票用紙をそれぞれ赤及び黒に色分けし、且つ各投票用紙交付所、記載所を明確に区分し、しかも投票所において念入りに一人一人を指導して投票させたのであり、町長への投票と町会議員への投票とに混淆を来たすことなきよう万全の措置が講ぜられていたのである。而して町長候補者で佐藤の姓を名乗る者は原告ただ一人であつたのであるから前記いわゆる無効投票は同原告を意識して同人に投票せられたものであること明らかである。同原告は選挙運動期間中町会議員候補者佐藤政美の出身地区(小原田区、有権者約四〇〇人)において延べ一六回政見演説を行いその後段で必ず「私は当地区町会議員候補者佐藤政美君と同姓で「まさ」も同名であります。投票日には町長町議とも佐藤と御記入下さい。云々」と繰返し述べたのであるが、これが選挙人に右両人は同名と錯覚されるに至つた原因の一つであり、また同原告は佐藤政美がポスターの全長を利用して「佐藤政美」と大書したのに比し町長候補者で佐藤姓は唯一人だけであるから「佐藤」とさえ覚られればよいと考えポスターに佐藤と大書しその下部に小さく正次と書いたのであるがこれも選挙人の脳裡に同原告の名を稀薄ならしめた原因の一つである。町長投票用紙に他の町会議員の氏名を記載したものは候補者一人につき一、二票の僅少に止つているのに反し、佐藤関係の票のみ二十数票の多数に達していることは以上の事実を数的にも証明して余りがある。原告佐藤正次の「正」を「政」と誤記することは同原告と日常親交ある者の間においても大半を算え同原告に宛てた郵便、年賀状(甚だしきは本件選挙の事務を主宰した町役場総務課長さえ年賀状その他に「政」の字を使用している)その他一般書類の宛名さては役場からの文書宛名に至るまで「政」と常用誤記されている現状であり、「政」の字は問題なく「正」と読むべきである。被告委員会が「佐藤正美」とある投票を原告佐藤への有効投票と認めながら前記一二票を無効投票と判定したのは矛盾であり不可解というの外はない。

(2)  次に本件訴訟における検証において新たに原告佐藤への有効投票と認められる次の計五票の存在が明らかとなつた。

(イ) 「」と記載ある分(検証調書添付写真1)

第二字目の「」は「と」と書くつもりで左書きしたもので文字不馴れの選挙人が短時間内に練習して一生懸命に書いたものである。

第三字目の「」も大体「う」に類似しており、右の投票は疑いなく「さとう」と解すべきである。

(ロ) 「」と記載ある分(前記写真2)

字画は多少崩れているが明瞭に「さトオ」と判読でき疑義の余地はない。

(ハ) 「」と記載ある分(前記写真3)

「佐藤萬左次」と書いたもので当然原告佐藤の名を書したものである。

(ニ) 「」と記載ある分(前記写真4)

筆頭文字は明確に「さ」となつており「まさじ」と名が完全に書いてある以上原告佐藤への有効投票と認むべきであり、このことは被告委員会が尾垣[イ原]一、岡崎[イ原]一、西垣[イ原]一、岡垣けん一とある各票を岡垣[イ原]一への有効投票と判定したと同様である。

(ホ) 「佐古田正次」と記載ある分

これも前記(ニ)と同様の理由により原告佐藤正次への有効投票と認むべきこと当然である。

(3)  被告委員会が岡垣[イ原]一への有効投票と認めた「チウチヨ」(前記写真5、被告主張のごとく「チヨチヨ」とは書いていない)は無効である。

岡垣[イ原]一が本件選挙前の大江町長であつたことは相違ないが、「チウチヨ」は発音的にも町長とは読めない。明確に「町長」と記載あるものさえ多分に疑義があるのに「躊躇」としか読めない本票が無効であることは当然である。仮りに「町長」と解すべきものとしても選挙当日においては原告佐藤正次も同格の町長候補である。これほど紛らわしい票はなく、投票中にも「佐藤町長」「佐藤まさじ町長」の票がありまた選挙運動期間中街頭演説において選挙人多数から「佐藤町長」の声をかけられた事実に徴しても混同の虞れが多分にありどちらを意図したものかわからない票であつて当然無効とすべきである。

更に本票は筆頭文字の「チ」の上に「メ」すなわち所謂「ペケ」を表示する鉛筆書きが認められこの点からしても無効投票であること明らかである。

(4)  以上述べた(1)の計一二票(2)の計五票を被告委員会認定にかかる原告佐藤の有効得票二、八七九票に加算し(3)の一票を岡垣[イ原]一の得票二、八九一票から控除し、更に前記二の(1)で述べた不在者投票一四票を同人の得票から控除すると両者の総得票は原告佐藤正次 二、八九六票、岡垣[イ原]一 二、八七六票となり岡垣の当選は無効である。

四、以上の理由によつて原告等は前記被告委員会のなした裁決の取消しおよび第一次的には本件選挙を無効とする旨、第二次的には岡垣[イ原]一の当選を無効とする旨の判決を求める。

第三、被告の主張

一、昭和三八年四月三〇日京都府加佐郡大江町において町長選挙(本件選挙)が執行され、これにつき原告等がその主張のごとき異議及び訴願の申立をなし、その経過が原告等主張のごときものであること、而して右選挙は昭和三七年法律第一六三号「地方公共団体の議会の議員及び長の選挙期日等の臨時特例に関する法律」にもとづき大江町議会議員一般選挙(以下町議員選挙という)と同時に執行されたものであり昭和三八年四月二六日が立候補届出期限であつたこと、および選挙の告示と同時に岡垣[イ原]一が立候補の届出を行ない、原告佐藤正次は同月二五日に立候補届出を行つたこと、および同月二三日から二五日までの間に大江町役場において公職選挙法(以下単に法という)第四九条にもとづき不在者投票が行なわれこの数が一四票であつたことは認める。

この不在者投票について被告委員会が調査したところによると選挙人の請求と大江町選挙管理委員会の管理はいずれも法第四九条および同法施行令第五〇条の規定にもとづく適法のものと認められる。およそ不在者投票に関する制度はもつぱら選挙の当日正当な理由によつて投票所に赴いて投票することができない選挙人のために投票日の前にあらかじめ投票する方途を与えようとするものであり立候補制度において立候補届出期限が定められていることは現行制度においてはなんらの関連を有するものではない。したがつて原告の主張は法律上根拠のないものである。

二、次に本件選挙における開票の状況について述べると、開票に際しては各投票区における投票を七名の事務従事者により混合し各候補者別に分類のうえその効力に疑問がない投票は得票計算係にその効力に疑問のある投票については無効投票整理係において三名の事務従事者により無効原因別に整理のうえ投票効力決定箋を付し選挙立会人の点検および意見を求め選挙長の決定を経て得票計算係のもとで確認し集積保管していたものである。したがつて選挙長および選挙立会人はいわゆる疑問票のみの点検にとどまり、大多数の投票については開票事務従事者の点検のみを行ない計算係に回付したものであると認められる。

また投票の効力決定については法第六七条の規定により選挙長は必ず選挙立会人の意見を聴かなければならないものであり、選挙立会人が意見を表明しない旨の明確な意思表示をしたときに限り選挙長のみで決定することができるものである。しかし選挙長は選挙立会人の意見によつて投票の効力を決定するものではなく選挙立会人の多数の意見はこれを尊重すべきではあろうがその意見を参考としつつ最終的には選挙長が決定の権限を有するものである。立会人に意見を聴く方法については状況により適宜の措置をとるべきものであつて一概にはいえないが、通常の開票状態においては全投票を立会人の点検に供し、効力に疑いのないような各「有効投票」および「無効投票」はこれをそれぞれ適当数に束ねて各束毎に効力決定箋を添付して、また効力に疑いのあるものに付てもそれぞれの効力決定箋を付して全立会人の点検及び意見を求める方法をとるべきものであろう。都合により投票のすべてを立会人の回覧に供しない場合にあつては、その効力に全く疑問がなく一括して立会人の意見を求めて効力を決定すればたりる投票であつてもこれにつき立会人が自由に点検しうる状況のもとにおくようにしさえすればよいのである。

本件の場合効力に疑いのある投票については立会人の点検並びに意見を徴し、また効力に疑いのない「有効投票」「無効投票」については事務従事者において確実な点検確認をしたうえ、ともに集積保管していたものである。その保管の場所については、各立会人から何らの意見の表明はなかつた。なお選挙長が投票の効力を決定するにあたり効力に疑いのない「有効投票」「無効投票」につき立会人の点検ならびに意見聴取をしなかつたことは、本件の場合町議員選挙と同時に執行されたので開票の迅速化のために採られた措置であり、仮りにこれが法第六七条、第六六条第二項に違反したとしてもそれは効力を決定する手続に瑕疵があるに止まり、これがために当該投票の効力まで否定せらるべきものでない。

しかしながら被告委員会は上述の本件選挙の開票及び投票の効力決定方法について必ずしも適当と認めがたい点があると考えたので総ての投票につき改めてこれを開披し点検することとしたのである。その結果各候補者別得票の帰属については投票総数五、九四二票、有効投票五、七五二票、内訳岡垣[イ原]一 二、八八九票、原告佐藤正次 二、八六八票、無効投票一八五票であつて選挙録記載のとおりであつた。なおこの点検は被告委員会の職権で実施したものであり町委員会の立会は求めていない。

三、次に投票の効力についてであるが、前記無効投票の内訳は一、法第六八条第二号該当七〇票 一、同条第三号該当一票 一、同条第五号該当六票 一、同条第七号該当三四票、白紙四八票、雑事記入二六票となつており、法第六八条第二号該当「候補者でない者の氏名を記載したもの」として無効の決定を受けた七〇票の内訳は町会議員候補者を記載したとみられるもの六四票、京都府会議員候補者であつた者を記載したとみられるもの二票、何人に投票したか判断しがたいもの四票であるが、町議員候補者を記載したとみられるもの六四票のうち原告佐藤正次に関係があるとみられるものは一八票であり、これを更に区分すれば「佐藤政美」と記載した投票五票「さとうまさみ」「佐藤まさみ」「佐とうまさみ」と記載した投票七票「佐藤正美」「佐藤正己」と記載した投票五票「サトウマサミ」と記載した投票一票である。原告等は明確に町長選挙投票と町議員選挙投票とを区別している以上「佐藤政美」「さとうまさみ」等の一二票は町長選挙候補者「佐藤正次」に対する誤記と認め原告佐藤正次の有効投票にすべきであると主張するが、選挙人の誤認を防ぐため投票用紙の区分を明確にし、またいかに施設を整え且つ事務従事者より選挙人に注意を促しても右誤認を防ぐことは不可能である。まして本件選挙は前述のとおり町長選挙と町議員選挙と同時に執行されたものであつて、町議員選挙候補者として「佐藤政美」なる者がある場合には「佐藤政美」「佐藤まさみ」「さとうまさみ」「佐とうまさみ」と記載の投票一二票はこれがいずれも判然とした記載であるので町長選挙候補者「佐藤正次」に投票したとみるよりは町議員候補者「佐藤政美」に対し投票したものとみるのが至当である。

また雑事記入として無効の決定をうけた二六票のうち「チヨチヨ」と記載された投票については本件のごとく他に元町長等立候補したものがなく混同される虞れのない場合においては現町長への有効投票と解すべく、したがつて岡垣[イ原]一の有効得票として算入すべきである。

四、次いで開票管理者の選任について述べると、本件選挙は大江町全域をもつて一選挙区として開票区の区域もまた同一であるので法第七九条第一項の規定を適用し本件選挙における選挙長である大江町選挙管理委員会委員長田和密祐がこれにあたつたものでありその選任は適法である。

またいわゆる保存票の再点検については被告委員会が法第二一六条第一項の規定により準用せられる行政不服審査法第二九条第一項の規定にもとづき職権により検証したもので違法な点はない。

五、以上述べたところにより本件選挙及び岡垣[イ原]一の当選は有効であり原告等の請求は理由がない。

第四、証拠<省略>

理由

一、原告等主張一の事実は選挙の管理執行及び投票の効力決定が違法であるとの点を除き当事者間に争いがなく、成立に争いない甲第七号証によれば被告京都府選挙管理委員会は原告等がなした訴願の申立にもとづき本件選挙の結果につき有効投票は候補者岡垣[イ原]一につき二、八九一票、原告佐藤正次につき二、八七九票、無効投票一七二票であり結局岡垣[イ原]一が当選者であることにかわりはないと判定して原告等の申立を棄却する旨の裁決をしたことが明らかである。

二、よつて先ず本件選挙は無効であるとの原告等の主張につき検討する。

(一)  不在者投票に関する主張について。

不在者投票に関する公職選挙法第四九条の規定は選挙権を有する者で同条各号所定の事由により選挙の当日自ら投票所に行くことのできない者についてその有する選挙権行使の機会を喪失せしめないために設けられたものであるから単独候補期間中は不在投票を実施できないという性質のものでないことは、もしそのように解するとできるだけ汎く有権者の意向を問おうとする同制度の趣旨が害せられることとなることによつても明らかである。たとえ不在者投票実施の期間中単独候補の状態であつても選挙の当日対立候補の状態となることは当然ありうることであり(現に本件選挙がそうである)、かつ不在者投票は有権者の請求にもとづきなされそのうえ実際に投票するか否かは当人の自由なのであるから単に対立候補がなかつたということのみの理由では、これにより右制度が乱用され選挙の公正が害せられたという特段の事情が認められない限り、単独候補期間中の不在者投票を無効とすることはできない。而して本件においてかような特段の事情の存在を認めるに足る証拠はないのでこの点に関する原告の主張は理由がない。

(二)  開票管理及び投票の効力決定に関する主張について。

成立に争いない乙第一号証、証人田和密祐の証言、同証言により本件開票当時の状況を示した図面であると認められる(立会人等の席が同図面表示のとおりであることに付ては当事者間争いがない)検乙第二号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件開票は選挙当日の午後七時頃から午後九時五分頃迄大江町役場の階上にある大会議室で行われたが、本件選挙が同町町議会議員一般選挙と同時選挙であり開票も共になされた関係から開票管理者兼選挙長田和密祐は開票事務を迅速にするため開票台で開披された投票は直接五名の得票計算係の許に回送し同係において点検した結果効力に疑問がある分についてのみ選挙長外三名の開票兼選挙立会人の許に回付し、右計算係において有効と認めた票はそのまま有効票として逐次計算に組入れることとしたこと、得票計算係の席と選挙長及び右立会人席とは無効投票整理係の席をその間にはさんで開票台を鍵状に囲む位置にあり投票計算係と無効投票整理係および無効投票整理係と選挙長及び右立会人の各席のそれぞれの距離はいずれも一メートル前後であつたこと、而して立会人よりかかる措置につきなんらの異議の申出もなかつたことが認められる。

ところで右措置が公職選挙法第六六条第二項末段第六七条前段の規定にそのまま合致するものなのでなかつたことは明らかであり大江町従来の慣例にも反するものであるが、前記状況のもとにおいても立会人は投票を点検してその意見を述べる機会を有したものというべく、且つ右異例の措置がとられたのは本件開票は前記のごとく町議会議員一般選挙の開票と同一場所で同時に(但しこの開票終了時刻は同日午後一〇時三〇分)行われ双方の開票事務を迅速にする意図から出たものであつてほかに何等の他意もなかつたことが認められるのであり、なお本件選挙は一選挙区、一開票区でその総投票数は五、九四〇票であるが検証の結果によつても全投票が投票当時の状態においてそのまま保管されており投票の結果を容易且つ明確に判定しうる状況であつたことが明らか(なお右検証の結果によれば岡垣[イ原]一の「有効票」になんら効力を疑わせる記載はない。)であるから、本件開票及び投票の効力決定に関する前記手続上の瑕疵は未だ以て全投票の無効を招来するに足るほど重大なものではないというべきである。なお原告等は候補者届出の立会人二名迄が有効と認めた票を開票管理者において無効としたのは職権乱用であると主張するが、右事実を認めるに足る証拠はないのみならず、仮にかかる事実があるとしても開票管理者は立会人の意見に拘束されるものでなく、そのことのみを以ては職権乱用となしえないこと明らかである。したがつて本争点に関する原告等の主張も結局において採用することができない。

(三)  本件選挙は全般的にみて著しく公正を欠いているとの主張について。

原告等は本件選挙において開票管理者は一般選挙人の内から選任せず町選挙管理委員長田和密祐が兼任した違法があると主張するが、本件選挙は大江町全域を以て一選挙区とし、開票区もこれと一致していることは原告等の明らかに争わないところであるから法第七九条第一項により本件選挙における開票管理者の行なう事務は選挙会において選挙長である町選挙管理委員長田和密祐が兼ね行つたのであるので右違法の主張は理由がない。

ところで選挙の管理執行が個々の具体的法規に違反しない場合においても全般的にみて選挙が著しく公正を欠いた状況のもとに行われその結果投票の結果に異動を来たす虞れがあると認められる場合においてはその選挙を無効とすべきことは原告等主張のとおりである。然しながら原告等の異議申立を審査した大江町選挙管理委員会の構成および原告等の訴願に対する被告京都府選挙管理委員会の審査状況が原告等主張のごときものであつたとしてもそのこと自体から本件選挙は公正を欠いたもので投票の結果に異動を来たした虞れがあるとなしえないことは明らかであり、その他本件全証拠を精査しても右事由の存在を認めることはできないから原告等のこの点に関する主張もまた理由がない。

三、よつて次に岡垣[イ原]一の当選は無効であるとの主張につき検討する。

(一)  「佐藤政美」「さとうまさみ」等と記載した投票計一二票は原告佐藤正次への有効投票であるとの主張について。

成立に争いない甲第七号証及び検証の結果によれば本計総投票中公職選挙法第六八条第二号に該当し無効の疑いがある票で原告佐藤正次に関係のある分は「サトウマサシ」一票、「佐藤政美(さとうまさみ)」一票、「佐とうまさみ」二票、「佐藤正己」二票、「さうとまさみ」一票、「さとうまさみ」二票、「佐藤まさみ」一票、「さとおまさみ」一票、「佐藤正美」三票、「佐藤政美」四票、以上合計一八票であり、その内原裁決は「佐藤正美」「佐藤正己」と記載ある計五票および「サトウマサシ」と記載ある一票についてはこれを原告佐藤正次への有効投票、その余の計一二票は本件選挙と同時に行われた町議会議員選挙候補者佐藤正美の氏名を記載したものとして無効と判定したものであることが明らかである。原告等は右一二票もまた原告佐藤正次への有効投票と解すべきであると主張するが、右一二票がいずれも(「さうとまさみ」一票は「さとうまさみ」の書損と見るべきである)右佐藤政美の氏名と完全に一致する以上、たとえこの点に関する原告等主張のごとき事由があるとしても、右投票は佐藤政美の氏名を書したものとしてこれを無効とすべきであり右原告等の主張は理由がない。

次に検証の結果無効投票中にあることが明らかとなつた原告等主張にかかる以下(二)乃至(六)の投票の効力に付て判断する。

(二)  「」と記載した投票について。

検証の結果によると本票は原告等主張のごとく文字に不馴れな選挙人が一生懸命に「さとう」と書こうとしたものであると解することができるから本票は原告佐藤正次の有効得票として算入すべきである。

(三)  「」と記載した投票について。

本票も原告等主張のごとく「さトオ」と書こうとしたものであると解せられるから原告佐藤正次への有効投票とすべきである。

(四)  「」と記載した投票について。

「佐藤萬左次」と書いたものであることが明らかであり「萬左次」は発音上「正次」と一致し末尾は同じ「次」であるから原告佐藤正次への有効投票と解すべきこと当然である。

(五)  「」と記載した投票について。

最初の文字はその字形、筆勢からみて「を」又は「お」をあらはすものとも解せられ、たとえ「さ」と解すべきものとしても全体の語感からいつて「岡垣[イ原]一」「佐藤正次」双方の語感とも著しく相違するから、本票は結局候補者の何人を記載したか確認しがたいものとして公職選挙法第六八条第七号により無効とするのが相当である。

(六)  「佐古田正次」と記載した投票について。

最初の文字及び名が「佐藤正次」のと完全に一致しており語感も発音の仕方により似通う場合があるので本票は原告佐藤正次への有効投票と認むべきである。

(七)  「チウチヨ」と記載した投票について。

検証の結果によれば本票は「チヨチヨ」ではなく「チウチヨ」と記載せられている。然し文字が稚拙なだけでその運筆、筆形及び筆勢からみてふまじめに書いたものとは認められないから筆者の意思は「町長」と記載するつもりであつたと推認できる。而して「町長」は当時の町長(岡垣[イ原]一であることに争いはない)に対する有効投票と解するのが相当であるから本票に関する原裁決の判定は正当である。なお最初の文字の「チ」のところに何やら記載したあとがあるが、仔細に観察するとこれは単なる書損じのあとであつて他意あつてなしたものではないと認定するのが相当であるからこれがために本票を無効とすることはできない。以上の認定に反する原告等の主張は採用しがたい。

(八)  原裁決の判定が有効投票岡垣[イ原]一の分二、八九一票、原告佐藤正次の分二、八七九票であることは前記のとおりであつて、これを右認定の結果により一部訂正すると有効投票は岡垣[イ原]一 二、八九一票、原告佐藤正次 二、八八三票となり岡垣[イ原]一が本件選挙の当選者であり、原裁決は結局において正当である。したがつてこれに反する原告等の主張は採用しえない。

以上の次第で原告等の請求は第一次、第二次とも理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加納実 沢井種雄 加藤孝之)

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